「面接に着ていく服がない」「現場の仕事が決まったけれど、安全靴を買うお金がない」。仕事を探している方の相談で、こうした話はよく出てきます。生活保護には、仕事に就くための費用を出す枠があります。生業扶助(せいぎょうふじょ)といいます。
ただ、使い方には順番があります。お金を払ってから領収書を持っていくのではなく、買う前、申し込む前に福祉事務所へ相談することです。この記事では、生業扶助で何が出るのか、令和8年度の基準額はいくらか、どういう順番で申請するのかを書きます。
生業扶助は、収入を増やすための扶助です
生活保護法第17条は、生業扶助の範囲を3つ挙げています。生業に必要な資金・器具・資料、生業に必要な技能の修得、就労のために必要なもの、の3つです。そのうえで「その者の収入を増加させ、又はその自立を助長することのできる見込のある場合に限る」と条件を付けています。
つまり、仕事や収入につながる見込みがあるかどうかが入口です。趣味の講座や、将来なんとなく役に立ちそうな資格は対象になりにくい。逆に、求人票に「要普通免許」と書いてある仕事に応募したい、という具体的な話なら、相談の土台ができます。
条文は対象を「最低限度の生活を維持することのできない者又はそのおそれのある者」としていて、困窮のおそれがある人まで含めて書いています。実際にどう扱うかは福祉事務所の判断です。
4つの費目と、令和8年度の基準額
金額は厚生労働省の告示(保護の基準)の別表第7で決まっています。令和8年4月1日から適用されている額です。
| 費目 | 何に使うか | 基準額 |
|---|---|---|
| 技能修得費 | 仕事に必要な技能を身につける費用 | 92,000円以内 |
| 就職支度費 | 就職や求職活動に直接必要な服・履物 | 35,000円以内 |
| 生業費 | 小規模の事業を始める資金や道具 | 47,000円以内 |
| 高等学校等就学費 | 高校に通う費用 | 基本額 月7,300円ほか |
技能修得のために交通費がかかる場合は、その実費が技能修得費に上乗せされます。
技能修得費は、資格の授業料と検定料に
厚生労働省の通知では、技能修得費として認められるのは、授業料、教科書・教材費、受講者全員に義務的にかかる費用、それに資格検定の費用です。検定の費用は、同じ検定について一度限りとされています。期間は原則1年以内で、自立に特に効果があると認められれば2年まで延ばせます。
92,000円では足りない講座もあります。通知には、やむを得ない事情があれば154,000円の範囲まで認めてよいという定めがあり、さらに次の3つに当たる場合は380,000円の範囲まで認めてよいとされています。
ひとつは、生計の維持に役立つ仕事に就くため専修学校や各種学校で技能を身につける場合。ふたつめは自動車の運転免許で、免許の取得が雇用の条件になっているなど、確実に就労するために必要な場合に限ります。三つめは、雇用保険の教育訓練給付の対象として厚生労働大臣が指定した講座で、修了すると公的な資格が得られるものです。いずれも、自立に効果があるかどうかを判断するのは福祉事務所です。
運転免許は、持っていたほうが有利、という程度の理由では通りにくいと考えてください。求人票や採用の連絡で「免許が条件」と分かる書類があれば、それを持って相談するのが近道です。パソコンの基本操作のような一般的な技能も、自立支援プログラムに基づくなど福祉事務所が特に必要と認めた場合は対象になります。受講料が無料の公共職業訓練が使えるなら、そちらが先です。お金をかけずに資格を取る方法と生活保護中に使える職業訓練もあわせて読んでください。
就職支度費は、スーツや靴の購入費
就職が決まった人が、仕事のために直接必要な洋服や履物を買う費用です。就職が決まる前でも、求職活動に必要だと福祉事務所が認めれば出せることになっています。ただし両方を使っても、服と履物の合計は35,000円以内です。自治体などがスーツを無料で貸し出している場合は、そちらの活用も検討するよう通知に書かれています。
もうひとつ知っておいてほしいのが、最初の給料が出るまでの通勤費です。必要でやむを得ない場合に限り、交通費の実費を出せる定めがあります。働き始めてから最初の給料日までの1か月、定期代が払えずに困る方は少なくありません。就職が決まった時点で、ケースワーカーに聞いてください。仕事が決まったあとの保護の流れは就職が決まったら生活保護はどうなるかに書きました。
生業費と、高校の費用
生業費は、小さな商売を自分で営むための資金や道具の費用です。通知では、生業計画の内容を確かめたうえで必要最小限の額を出すとされ、やむを得ない場合は78,000円の範囲まで認められます。
高校に通う費用も、教育扶助ではなく生業扶助から出ます。基本額は月7,300円で、教材代、入学考査料(30,000円以内)、通学の交通費、クラブ活動などの学習支援費(年間101,000円以内)が別にあります。詳しくは学校にかかるお金の記事にまとめています。
申請は、お金を払う前に
生業扶助は、福祉事務所が必要性を調べて確認してから額を決める仕組みです。順番は次のように考えてください。まず求人票や講座の案内、見積もりなど、何にいくらかかるか分かるものを手に入れる。それを持ってケースワーカーに相談し、申請する。支給が決まってから買う、申し込む。領収書は捨てずに取っておく。
通院の交通費と同じで、先に話を通しておくことが一番の近道です(通院交通費の記事)。認められるかどうか、いくらまで出るかは福祉事務所が判断し、自治体によって運用が違います。
働きたい気持ちはあるのに、最初の一歩にかかるお金で止まっている。そういうときは一人で抱えずに相談してください。無料の相談前チェックに、いまの状況と、やってみたい仕事を書いて送ってもらえれば、私たちから折り返しご連絡します。
出典
・生業扶助の範囲と条件:生活保護法第17条 e-Gov法令検索https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000144
・生業費・技能修得費・就職支度費・高等学校等就学費の基準額(令和8年4月1日適用)、技能修得の期間と交通費の加算:厚生労働省「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号)別表第7https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82051000&dataType=0
・技能修得費として認められる経費、特別基準の額と要件、就職支度費の対象と初任給までの通勤費、生業費の特別基準:厚生労働省「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和38年4月1日社発第246号)第7の8https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta8432&dataType=1&pageNo=2
(いずれも確認日2026年10月19日)


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