厚生労働省が8月21日、令和7年に労働基準監督署が扱った「賃金不払」の状況を公表しました。1年間で22,605件、対象になった働き手は173,016人、金額にして128億5,782万円。そしてこのうち96.1%が、監督署の指導によって年内に支払われています。給料が振り込まれないまま黙って諦めてしまう方が少なくないので、この数字は知っておいてほしいと思って取り上げました。
何が公表されたのか
公表されたのは、令和7年(2025年1月〜12月)に全国の労働基準監督署が取り扱った賃金不払事案の集計です。監督署が立入調査(監督指導)を行った結果と、実際の是正事例・送検事例がまとめられています。
令和7年の賃金不払(厚生労働省 2026年8月21日公表)
| 件数 | 22,605件(前年比 251件増) |
| 対象労働者数 | 173,016人(同 12,181人減) |
| 金額 | 128億5,782万円(同 43億5,331万円減) |
| うち年内に支払われたもの | 21,731件(96.1%)/167,828人(97.0%)/109億9,703万円(85.5%) |
件数はわずかに増え、人数と金額は減りました。金額の減り方が大きいのは、対象者の多い大口の事案がその年にあったかどうかで振れる部分があり、1年の増減だけで「改善した」と読むのは早いと私たちは考えています。ただ、件数が2万件台で高止まりしているという事実のほうは、動いていません。
「賃金不払」とは何のことか
給料が全く振り込まれない場合だけではありません。残業した分の割増賃金が払われていない、休日出勤の手当がつかない、退職時に最後の1か月分が精算されない。これらもすべて賃金不払です。労働基準法は、賃金は決められた日に全額を通貨で直接本人に払わなければならないと定めていて、これに反する状態が該当します。
労働基準監督署は、この労働基準法を守らせるための役所です。働いている人が「給料が払われていません」と申し出ると、監督署は会社に立入調査を行い、違反があれば是正するよう指導します。それでも払わない、悪質だと判断されれば、検察庁へ書類送検されることもあります。今回の公表にはその送検事例も含まれています。
相談すれば、多くは動く
今回の数字でいちばん伝えたいのはここです。監督署が扱った事案の96.1%は、指導によって年内に支払われています。「言ったところで、どうせ払ってもらえない」と思っている方に、実際はそうではないことを知ってほしいと思います。
相談は無料です。会社の所在地を管轄する労働基準監督署の窓口へ行けば、本人が申し出ることができます。弁護士に頼まなくても手続きは始められます。夜や休日しか時間が取れない場合は、厚生労働省の「労働条件相談ほっとライン」(0120-811-610)が平日17時〜22時、土日祝9時〜21時に受け付けています。日本語以外の言語にも対応しています。
相談に行くときは、持っていける物があると話が早く進みます。給与明細、雇用契約書や労働条件通知書、タイムカードのコピーや勤務シフト表。それらが手元になくても、出退勤の時刻を書いたメモや、業務連絡のやりとりが残っていれば材料になります。まず、いま手元にあるものを捨てないでください。
見落とされやすいこと
監督署は、お金を取り立ててくれる機関ではありません。やるのは法違反の是正指導であって、代わりに請求してくれるわけではないという点は、はっきりさせておきたいところです。件数ベースでは96.1%が解決していても、金額ベースでは85.5%。残りは年内に支払われていません。会社が支払わないまま争いになれば、労働審判や訴訟といった別の手段が必要になります。
会社が潰れてしまった場合には、別の制度があります。倒産して給料が払われないまま退職した方のために、未払賃金立替払制度があります。独立行政法人労働者健康安全機構が、未払額の8割を立て替えて支払う仕組みです。退職日の年齢によって上限があり、30歳未満は88万円、30歳以上45歳未満は176万円、45歳以上は296万円まで。対象は退職日の6か月前から請求日前日までに支払日が来ていた給料と退職金で、ボーナスは含まれません。請求できるのは、破産手続開始の決定などの日の翌日から2年以内です。手続きの入口は労働基準監督署になります。
請求できる期間には限りがあります。賃金を請求する権利の時効は、いまのところ支払日から3年とされています(法律上は5年ですが、当分の間3年とする経過措置が置かれています)。3年前の残業代を今から取り戻すのは難しくなるということです。心当たりがあるなら、早いほうがいい。
辞めてからでなくても相談できます。在職中は言い出しにくいという声をよくいただきます。ただ、監督署に申し出たことを理由に解雇したり不利益な扱いをしたりすることは、労働基準法で禁止されています。相談したこと自体を会社に伝えるかどうかも、窓口で相談できます。
制度として残る課題
公表された数字は、あくまで監督署に届いた分です。届いていないものは、どこにも計上されません。私たちが相談をお受けしていて感じるのは、諦めている方がかなりいるということです。すでに辞めていて関わりたくない、次の仕事を探すほうが先、体調が悪くて役所へ行く体力がない、日本語での説明に自信がない。そうした理由で、22,605件の外側に置かれたままの給料があると思います。
もうひとつ、給料が入らないときにいちばん困るのは、支払いのほうが待ってくれないことです。家賃、光熱費、携帯代。1か月分が飛ぶと、そこから連鎖して滞納が始まります。監督署の指導で支払われるまでには時間がかかりますから、その間をどう持ちこたえるかという問題は制度の外側に残ったままです。だからこそ、賃金不払の相談と生活を立て直す相談は、本来同時に進めたほうがいいと私たちは考えています。
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給料のことで困っていたら
働いた分の給料が払われないというのは、お金の問題であると同時に、次の一歩を踏み出す気力を削られる出来事でもあります。家賃を滞納しはじめている、光熱費が止まりそう、次の仕事をどうするか決められない。そういう状態でご相談いただいてかまいません。
私たちは、住まい・仕事・学びの3つを行き来しながら相談をお受けしています。給料そのものの請求は労働基準監督署が窓口になりますが、そこへ行くまでの整理や、家賃が払えないときに使える住居確保給付金のような制度、生活保護の検討まで、あわせて考えることができます。相談は無料です。
NPO法人 暮らし就労支援協会
収入が途切れて生活保護を考えはじめた方は生活保護の申請方法を、働きながら受けられるかどうかが気になる方は生活保護は働きながら受けられる?収入認定と基礎控除の仕組みもあわせてどうぞ。
出典
- 厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和7年)を公表します」(令和8年8月21日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75588.html(2026年8月22日確認) - 厚生労働省「未払賃金の立替払制度の概要」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shinsai_rousaihoshouseido/tatekae/index.html(2026年8月22日確認) - 厚生労働省「未払賃金が請求できる期間などが延長されています」(賃金請求権の消滅時効期間の延長・労働基準法115条)
https://www.mhlw.go.jp/content/000617974.pdf(2026年8月22日確認) - 厚生労働省委託事業「労働条件相談ほっとライン」
https://public.lec-jp.com/roudouHotline/(2026年8月22日確認)
本記事は2026年8月22日時点で公表されている情報にもとづいています。制度の細かい要件や金額は変更されることがあります。個別の事案については、勤務先の所在地を管轄する労働基準監督署へご相談ください。法的な判断が必要な場合は弁護士等の専門家にご確認ください。

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