「何かあったときに連絡がつかない」と断られる|国が示した残置物の契約条項で、備えを先に形にする

住まい

部屋探しで断られた方に理由を尋ねると、「緊急連絡先がないと言われた」という答えがよく返ってきます。ただ、もう一歩踏み込んで貸す側の話を聞くと、心配の中心は書類の欄そのものではなく、その先にあることが分かってきます。入居している方が亡くなったとき、契約を終わらせる人がいない。部屋に残った家財を、誰も片づけられない。

口にしにくい話です。けれど、心配の正体が分かれば、先に打てる手があります。国は2021年に、この心配に答えるための契約のひな形を出しました。この記事では、そのひな形の中身と、部屋を探す側が今日からできることを書きます。

貸す側が止まってしまう、2つの場面

部屋を借りている方が亡くなると、借りる権利も、部屋の中の家財の持ち主としての立場も、相続人に引き継がれます。相続人がはっきりしていれば、話はそこで進みます。困るのは、相続人がいるのか、どこにいるのかが分からないときです。

そうなると、大家さんは契約を勝手に終わらせることも、残った家財を勝手に処分することもできません。家賃が入らず、次の人にも貸せない部屋が残ります。国のひな形の前書きは、こうした心配が、単身の高齢の方に部屋を貸すのをためらう主な理由だとしています。

緊急連絡先の欄が埋まらないことを気にされる方は多いのですが、貸す側の頭にあるのは、この2つの場面であることが少なくありません。連絡先そのものの話は緊急連絡先がないと部屋が借りられないのはなぜかに書きました。

国土交通省と法務省が出した「ひな形」

2021年6月、国土交通省と法務省は「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を公表しました。残置物は部屋に残された家財のこと、モデル契約条項は契約書に使える条文の見本のことです。想定しているのは、60歳以上の単身の方が部屋を借りるときです。

仕組みは、入居する本人が、頼める相手と賃貸借とは別の契約を結んでおくというものです。頼まれる側を、ひな形では受任者と呼びます。頼むことは2つです。

ひとつは、本人が亡くなったときに、部屋の賃貸借契約を終わらせる手続きを代わりに行ってもらうこと。もうひとつは、契約が終わったあとに、部屋に残った家財を運び出して処分してもらうことです。2つは同じ相手と1通の契約書で結んでもかまわない、とされています。

家財の扱いには、本人の希望を残せるようになっています。捨てずに誰かへ送ってほしいものと、その送り先を、あらかじめ決めておけるのです。それ以外のものは、処分の対象になります。ひな形の条文では、処分できるのは亡くなってから一定の期間が過ぎ、しかも契約が終わってからで、その期間は仮に3か月と置かれています。解説には、実際の期間は当事者が話し合って決めるが、3か月より短くするのは避けるべきだと書かれています。これはひな形とその解説の考え方で、法律で決まった期間ではありません。

誰に頼めばいいのか

ひな形の解説は、受任者としてまず望ましいのは、本人の相続人になる予定の人だとしています。そのうえで、相続人の居場所が分からない、引き受ける気持ちがない、という場合には、居住支援法人や、居住支援を行う社会福祉法人のような第三者が望ましいとしています。家財の処分については、物件の管理会社も候補に挙がっています。反対に、大家さん本人を受任者にするのは避けるべきだと、はっきり書かれています。契約を終わらせる場面では、大家さんと借りる側の利害がぶつかることがあるからです。

居住支援法人は、住宅セーフティネット法にもとづいて都道府県知事が指定する法人です(居住支援法人という仕組み)。2025年10月1日に施行された改正法で、居住支援法人の業務に、入居者から頼まれて残置物を処理することが加わりました。国土交通省は、その実施にはこのモデル契約条項を使うことが基本だとしています。

ただ、どの居住支援法人でもこの業務をしているわけではありません。国の手引きによると、居住支援法人がこの業務を行うには、業務の規程を定めて都道府県知事の認可を受ける必要があります。法人の一覧は国土交通省のホームページに載っていますが、残置物の処理を受けているかどうかは、法人ごとに問い合わせて確かめてください。地域によっては該当する法人がない場合もあると、国の資料にも書かれています。

使うことは義務ではない。だから借りる側から示せる

国土交通省は、このモデル契約条項の使用は法令で義務づけられていないとしています。使うかどうかは、本人と受任者、大家さんの合意しだいです。

裏を返すと、大家さんや不動産会社がこの仕組みを知らないこともあり得ます。だから、借りる側から「亡くなったあとの手続きと家財の処理を頼む相手を決めて、契約を結ぶ用意があります」と伝えることに意味があります。ひな形の解説も、受任者と契約したことや受任者の連絡先を大家さんに伝え、大家さんがそれを確かめてから部屋の契約を結ぶ、という流れを想定しています。

注意もあります。ひな形の前書きには、個人の保証人がいる場合のように、大家さんがもともと心配しにくい場面で使うと、契約が無効になる可能性があると書かれています。本人と受任者が中身を十分に理解し、自分の意思で同意していることも前提です。誰かに急かされて結ぶものではありません。費用がかかるかどうか、いくらかかるかは、頼む相手に先に確かめてください。

今日できること

まず、部屋にあるもののうち、捨ててほしくないものを書き出してみてください。写真、手紙、位牌、誰かに渡したい品物。送り先がまだ決まっていなくてもかまいません。紙に書いてあるだけで、受任者と話すときの材料になります。

次に、頼める相手の当てを探します。ご親族に頼めるなら、それが一番です。難しいときは、国土交通省の居住支援法人の一覧でお住まいの都道府県の法人を探し、残置物の処理を受けているか問い合わせてみる。市区町村の社会福祉協議会に相談してみるのもひとつの道です。

そして部屋探しのときに、不動産会社へ「残置物のモデル契約条項を使う用意がある」と伝えてみてください。すぐに話が通るとは限りません。それでも、断られた理由を一緒に考えてもらうきっかけにはなります。

あわせて考えておきたいこと

亡くなったあとの備えと並んで、貸す側が気にするのは、部屋で具合が悪くなったときに誰が気づくかです。見守りが付いた賃貸住宅の動きは居住サポート住宅の記事に、お金の管理や手続きを手伝ってもらえる社会福祉協議会の事業は日常生活自立支援事業の記事に書きました。

契約の中身は、一人ひとりの事情で判断が変わります。遺言や相続、亡くなったあとの手続き全般にかかわることは、専門家に相談してください。費用が心配な方は法テラスの記事も参考になります。大家さんや管理会社、自治体によって運用も違います。

断られ続けて、理由が分からなくなっている方は、住まいの相談のページか無料の相談前チェックから、いまの状況を教えてください。メールは info@npokurashi.com で受け付けています。生活保護を考えている方は、保護を受けられるかどうかを決めるのは福祉事務所で、運用は自治体によって違うことも、あわせて覚えておいてください。

出典

・モデル契約条項の策定(国土交通省・法務省)、構成、使用が法令上の義務ではないこと、改正住宅セーフティネット法(令和7年10月1日施行)で居住支援法人の業務に残置物処理が加わりモデル契約条項の活用が基本とされたこと:国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000101.html
・策定の経緯(賃借人の死亡後に賃借権と残置物の所有権が相続人に承継されること)、令和3年6月の策定、60歳以上の単身高齢者を想定していること:法務省「残置物の処理等に関するモデル契約条項(ひな形)の策定について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00262.html
・受任者の候補と避けるべき相手、処分までの期間(仮に3か月・3か月を下回らないこと)、無効となる可能性がある場面、受任者の連絡先を賃貸人へ伝える運用:「残置物の処理等に関するモデル契約条項」本文と解説コメントhttps://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001726434.pdf
・居住支援法人がこの業務を行うときの業務規程と都道府県知事の認可:国土交通省住宅局安心居住推進課「残置物処理等業務規程の作成・認可の手引き」(令和7年6月)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001897889.pdf
・地域によって該当する居住支援法人がない場合があること:国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項の活用ガイドブック(第2版)」(令和7年10月)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001746714.pdf
・居住支援法人の制度と一覧:国土交通省「住宅確保要配慮者居住支援法人について」https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_fr7_000026.html、「居住支援法人一覧」https://www.mlit.go.jp/common/001465934.pdf
(いずれも確認日2026年10月27日)

コメント

タイトルとURLをコピーしました