退去の立会いで、こんな請求をされたという相談を受けることがあります。「壁紙の張り替え代を全額請求された」「フローリングの傷が、生活していれば当然できる程度のものなのに、全部負担しろと言われた」。敷金からそうした費用が差し引かれ、戻ってくるはずのお金がほとんど残らない。これは、知っておくだけで結果が変わることがあります。
「借りたときの状態に戻す」のがルールではありません
原状回復と聞くと、入居時の真っさらな状態に戻すことだと思っている方が多いのですが、それは誤解です。国土交通省が示している考え方では、住んでいれば自然に生じる経年変化や、普通に使っていて生じる損耗(通常損耗)は、そもそも家賃に含まれているものとされています。つまり、日光による壁紙の変色や、家具を置いたことでできる床のへこみのような「誰が住んでも同じように生じる傷み」は、借主が追加で負担するものではありません。
借主が負担するのは、故意や不注意、あるいは通常の使い方を超える使用によって生じた損耗・破損の復旧費用に限られます。たとえば、タバコのヤニによる変色や、掃除を怠ったことによる油汚れなどは、通常の使用を超えると判断されることがある例です。
年数がたっているほど、負担割合は下がります
借主が負担することになった場合でも、全額をそのまま請求されるとは限りません。ガイドラインは、設備の耐用年数を考慮して、経過年数に応じて負担割合を下げる考え方を示しています。壁紙であれば耐用年数はおおむね6年とされ、入居から年数が経っているほど、残っている価値の分だけを負担する、という計算になります。入居して間もない退去と、何年も住んだあとの退去とで、同じ傷でも負担額が変わってくるのはこのためです。
(出典:国土交通省「住宅:『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』について」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html 確認日2026年9月20日)
このガイドラインには、法的な強制力はありません
ここは正直に書きます。このガイドラインは、契約を結ぶときに参考にしてもらうための資料であって、それ自体に法律のような強制力はありません。すでに交わしている賃貸借契約の内容が優先されると、国土交通省は説明しています。契約書に原状回復についての特約がある場合、それがどこまで有効かは個別の事情で判断が分かれるため、この記事では書きません。ガイドラインは「一般的な基準」を示すものとして、話し合いの土台になります。
納得できない請求を受けたとき
退去の立会いでその場で金額に合意させられそうになったら、「持ち帰って確認します」と言って、その場で決めないことが大切です。請求書の内訳をもらい、どの部分がどの理由で請求されているのかを確認してください。国のガイドラインという基準がある、と知っているだけで、話し合いの姿勢が変わります。
それでも解決しない場合は、消費生活センターなどの相談窓口に相談する方法もあります。ガイドラインの内容そのものについては、国土交通省住宅局参事官(マンション・賃貸住宅担当)が問い合わせ窓口として案内されています(電話03-5253-8111)。個別の請求の当否は、消費生活センター等で相談してください。
敷金が戻らないことで、次の住まいに困らないために
敷金は、次の部屋の初期費用に充てるつもりだった、という方も多いはずです。想定より戻ってこなかったことで家計が苦しくなったら、家賃を含む固定費の見直しから手をつけてください。固定費から見直す家計の立て直しの記事にまとめています。今の家賃の支払いそのものが厳しいなら、滞納したときの対応も確認しておくと安心です。次の部屋を保証人なしで探す必要がある方は、保証人なし賃貸の記事も参考にしてください。
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